サイバーエージェントが広告×生成AIで変えた現場の手順書

深夜23時。来週のクライアント提案に向けて「生成AIでクリエイティブを効率化できます」と書きかけたスライドを閉じて、「サイバーエージェント 広告 生成AI」と打ち込んでいるあなたに、まず一つ言わせてください。
その検索は正解です。でも、出てくる記事のほとんどは「サイバーエージェントも生成AIを積極活用中」「業界をリードする取り組み」で終わって、明日の業務が何も変わらない。それはあなたのせいじゃなく、記事が薄いんです。
通説では「生成AI=クリエイティブを大量に量産するツール」とされている。でもサイバーエージェントが本当にやってきたことの核心は、量を増やすことではなく、「どれが当たるかを配信前に評価する仕組み」を先に作ることでした。
この記事では、その設計思想を読み解いて、今日からあなたの現場で動けるプロンプト・手順を渡します。
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「量を出す」より「スコアで絞る」が、実は先にあった
生成AIブームに乗って多くの広告チームが最初にやることは、「とにかくコピーをたくさん作る」です。ChatGPTでキャッチコピーを100本出して、画像生成AIで50枚のビジュアルを生成する。でも「どれが当たるかは配信してみないとわからない」という状態は何も変わっていない。
これは生成の問題ではなく、評価の問題なんですよね。
サイバーエージェントが取り組んできた「極予測AI」の発想は、その逆を行く。クリエイティブを配信する前に、機械学習モデルがCTR・CVRの予測スコアを出す仕組みです。人間のクリエイターが作った素材を、AIが「これは通す、これは差し替え」という方向で評価を補助する。
先日、CyberAgentのAI Labが公開している技術解説を読んでいて唸ったんですよ。参考 広告テクノロジーでよくある「配信後データで学習→次のクリエイティブに活かす」という後追いサイクルより一手前の問題を解いている設計でした。無駄な配信予算を使わずに済む、制作側へのフィードバックループが速くなる、この2つを同時に解く発想です。
重要なのは、これが外部広告主がすぐ使えるSaaSではないということ。サイバーエージェントが自社の大量のクリエイティブデータと配信実績を使って内製した仕組みです。でも「評価が先、量産が後」という順序の発想は、規模に関係なくどのチームでも盗める。
| 観点 | 従来の制作フロー | AIスコアリングを組み込んだフロー |
|---|---|---|
| クリエイティブ評価のタイミング | 配信後(2週間〜1ヶ月後) | 配信前(数分〜数時間) |
| 評価の根拠 | 担当者の感覚・過去経験 | 予測スコア+人間の判断 |
| 修正サイクル | 月単位 | 週単位〜日単位 |
| 必要なもの | 経験値と勘 | 過去の配信データ+評価設計 |
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月曜9時、Aさんの2週間とBさんの2時間
架空の2人の物語ですが、現場でよく聞くパターンです。
Aさん(従来型チームのアカウントマネージャー)
- 月曜 9:00 デザイナーからSlackでバナー3案が上がる
- 10:30 クライアントとのウェブ会議。「どれがよさそうですか?」と聞かれ、参加者の多数決で感覚的にA案を選ぶ
- 翌々週 配信レポートが上がる。A案のCTRは期待を下回っていた。「B案にすればよかったかも」という後悔が残るが、もう修正の機会はない
- 翌月 次のクリエイティブ制作が始まる。同じ感覚値の繰り返し
Bさん(AIスコアリングを組み込んだチームのアカウントマネージャー)
- 月曜 9:00 デザイナーからバナー3案が上がる
- 9:15 3案をLLM評価プロンプトに投入。コピー・ビジュアル説明・CTAを入力する
- 9:45 「C案のスコアが最高。A案はCTAの摩擦感が高い、B案はターゲット共鳴度が低い」という評価が返ってくる
- 10:00 C案を先行配信しつつ、A案のCTAだけ修正するよう即座に指示。クライアントへの提案に評価の根拠を添える
- 翌週 C案が想定通りのパフォーマンスを出す。根拠があるので振り返りも次回の制作指示も具体的になる
時間の差より大きいのは「根拠の有無」だと思ってます。Bさんはスコアとロジックをもってクライアントとのミーティングに入れる。説明責任の質が根本から変わるんですよね。
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そのまま使えるプロンプト2選:今日から動かすための具体の道具
プロンプト① 広告コピー案の一括生成
あなたは広告コピーライターです。
以下の条件でバナー広告のキャッチコピー案を[本数:例10]本作成してください。
【商品・サービス名】[例:転職支援アプリ〇〇]
【ターゲット属性】[例:28〜35歳、転職を検討しているが踏み出せていない会社員]
【訴求軸】[例:スカウト機能・登録3分・完全無料・利用実績〇万人]
【媒体・フォーマット】[例:Instagram Feed、メインコピー20字以内・サブコピー30字以内]
【禁止表現】[例:「絶対」「必ず」「No.1」などの断定・優良誤認につながる表現]
出力形式:
番号付きリスト。各コピー案のあとに、その表現の意図を1行(40字以内)で添える。
使いどころ:初稿ブレスト。チームで絞り込む前の「素材の種」として使う。最初から1本に絞ろうとしないのがコツで、まず多様な角度の候補を出してから選ぶ。
出力を検証する観点:①禁止表現が混入していないか(必ず目視確認)、②候補が似たようなトーンに偏っていないか(多様性の確認)、③ターゲットの実際の言葉遣いと乖離していないか。
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プロンプト② LLMによるクリエイティブ事前評価
あなたは広告クリエイティブの効果予測専門家です。
以下のバナー広告の要素を読み、配信前の評価レポートを作成してください。
【メインコピー】[例:「転職、3分で始まる。スカウト実績〇万件」]
【サブコピー】[例:「登録無料・今すぐスタート」]
【ビジュアル説明】[例:スマホを持つ20代後半のビジネスパーソン、白背景、清潔感のある服装]
【CTAボタン】[例:「無料で登録する」]
【ターゲット】[例:28〜35歳、現職への不満はあるが転職に踏み出せていない会社員]
【配信媒体】[例:Instagram Feed 広告]
評価項目(各1〜5点で採点し、理由を2文で述べる):
1. ファーストビューの視線誘導・インパクト
2. コピーの明確さとベネフィット訴求の強さ
3. CTAの摩擦感(クリックしやすいか)
4. ターゲットとの感情的共鳴度
5. 媒体の文脈との適合性
最後に:3点以下の項目について、具体的な改善案を2案ずつ提示してください。
使いどころ:クライアント提案前・社内レビュー前の「第2の目」として。人間の感覚に加えてLLMのフィードバックを得ることで見落としを減らす。提案の根拠づけにも使えます。
出力を検証する観点:LLMは「雰囲気のよいコピー」を高評価しがちで、実際の配信パフォーマンスと一致しないことがある。まず自社の過去のベストパフォーマーを入れて評価させ、スコアと実績が合っているかを最初に確認してみてください。
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少し個人的な話を挟みます。
匠座では毎日AIが記事の初稿を生成して、品質チェックリストを通してから公開するパイプラインを動かしています。このプロンプト②に近い「LLMによる初稿評価」をコンテンツ品質のゲートに組み込んでいるんですが、運用して最初の3週間でわかったのが、「評価の観点を言語化するプロセスそのものが資産になる」ということでした。
何をよしとして何をだめとするかを書き出す作業は、チームの評価基準を揃える会議の代わりにもなるんですよね。広告クリエイティブでも同じことが言えると思ってます。プロンプトを整備する過程で「うちのクリエイティブの基準って何だっけ」という問いに向き合わざるを得なくなる。その思考の棚卸しが、副産物として一番価値があるかもしれません。
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よくある質問に先に答えます
Q1. 小規模な代理店や事業会社でも使えるか?
使えます。サイバーエージェントのような内製スコアリングモデルを作るには大量のデータと開発コストが必要ですが、プロンプト②のような「LLMによる擬似評価」は今日から始められる。「評価の観点を先に言語化する」という発想を盗むことに、規模は関係ありません。
Q2. 生成AIで作ったバナーは媒体審査に通るのか?
審査は「生成AIかどうか」ではなく「コンテンツの内容」で判断されます。誇大表現・薬機法違反・著作権問題は、AIが生成しても人間が作っても同じく審査対象。大量生成しやすい分、コンプライアンスチェックの仕組みをセットで設計することが必要です。
Q3. AIに渡す配信データのセキュリティはどうする?
クラウドのAI APIにデータを送る場合、利用規約で「学習に使用しないか」を必ず確認してください。個人情報・特定の顧客データは原則として渡さない。ターゲット属性は「説明文」に変換してプロンプトに組み込む形が安全です。社内規程と照らし合わせてから運用設計を決めることを強く勧めます。
Q4. 「AIで作ったクリエイティブ」とクライアントに伝えるべきか?
現時点で法的な開示義務はケースによります(要確認)が、「最終判断と責任は人間が取る」という運用を明示することが信頼関係の観点から重要です。「AIに丸投げ」ではなく「AIを評価ツールとして活用した」という説明の方が実態とも合います。
Q5. 社内クリエイターからの反発をどう乗り越えるか?
「AIに置き換えられる」という不安が根にあることがほとんどです。「0から作る作業」を削るのではなく、「AIが出した素材をクリエイターが批評・編集する工程」としてポジショニングする。クリエイターの判断が起点になる設計にすることが、組織への導入でいちばん確実なルートだと思ってます。
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正直に言う:向かない現場と、よくある失敗
万能ではないので、ここは率直に書きます。
向かないケース:配信データが社内に溜まっていない段階でスコアリングに入ろうとするのは早すぎます。機械学習ベースの評価モデルは、学習データがないと機能しません。まずはデータを溜める仕組みから始めることが先決です。
また、クリエイティブの決定権が複数の部門に分散している組織では、「AIスコアが高い案」と「上長が気に入った案」が衝突したとき誰が決めるか、という政治問題が発生しがちです。AI評価の導入前に「誰が最終判断するか」のルールを決めておかないと、スコアが使われないまま形骸化します。
よくある失敗:生成AIにクリエイティブ全体を「任せる」と、ブランドのトーンや個性が均一化・無個性になりがちです。AIは中央値に収束する傾向があるので、「尖り」の設計は人間がやらないといけない。また、プロンプトを整備しないまま運用を始め、出力品質がバラバラのまま「やっぱりAIは使えない」という結論になるパターンも多い。最初の1週間でプロンプトを磨き込む投資を惜しまないことが、3ヶ月後の定着率を決めます。
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まとめ:設計思想の5ステップと時間の目安
| ステップ | 一言で言うと | 時間の目安 |
|---|---|---|
| ① 評価軸の言語化 | 「いいクリエイティブの条件」を5項目で定義 | 1〜2時間 |
| ② 擬似スコアリングの試行 | プロンプト②で既存クリエイティブを評価 | 半日 |
| ③ 生成→評価→修正のループ | 1案件を新フローで動かし、感触をつかむ | 1週間 |
| ④ データの蓄積 | スコアと配信実績のログを積み上げる | 1ヶ月〜 |
| ⑤ 判断の自動化を検討 | スコアと実績が相関してきたら自動化へ | 3ヶ月〜 |
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今日やること:30分でできる3ステップ
ステップ1(10分):「いいクリエイティブの条件」を書き出す
過去のベストパフォーマーを3〜5本選び、「なぜ当たったか」を箇条書きにしてください。コピーの長さ、ビジュアルの雰囲気、CTAの文言、ターゲットとの共鳴点。この言語化が、プロンプト②の「評価軸」の骨格になります。やってみると「実は言葉にできていなかった」という部分が必ず出てきます。
ステップ2(15分):今週配信中のバナー1本をプロンプト②で評価する
上のプロンプト②に、今週配信中のバナー情報を入れて実行してみてください。LLMの評価と自分の感覚が一致する部分・しない部分が見えます。その「ズレ」が、評価軸がまだ曖昧な場所のサインです。
ステップ3(5分):ログを残す場所を1枚作る
「プロンプト内容、AI評価スコア、配信後の実績(CTR・CVR)」を記録するスプレッドシートを今日作ってください。今日が1行目です。1ヶ月分が溜まると、LLMのスコアと実績の相関が見えてきます。その相関データが、あなたのチーム独自の評価モデルの種になります。
サイバーエージェントが数年かけて構築したものを1日で再現することはできません。でも「評価軸を先に言語化して、ループを回す」という設計の順番だけなら、今日から盗めます。
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編集長メモ:ヘリックス(執筆者について)
プロンプト②を使う前に、ステップ1の「評価軸の言語化」を先にやってみてください。書き出すと「実は自分たちの基準が言葉になっていなかった」と必ず気づきます。そこが全ての出発点です。
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